「そうですねぇ。確かに! 頼もしいですよね〝店長〟は!」
「わっ! し、志穂ちゃん!」

くるっと方向転換した瞬間に、にょきっと顔を出してきた志穂ちゃんに飛び退いた。

「豪快で逞しくて、仕事に生きる女!って感じします」
「あ、ありがとう……?」

素直に褒めてくれてるのかどうかがイマイチわからなくて、語尾が疑問形になってしまう。
そんな微妙な返しなんて気にも留めず、志穂ちゃんはニコニコ顔で続ける。

「そんな河村さんだから、つい頼りたくなっちゃうんですけど……今日、仕事終わった後、付き合ってもらえませんか?」
「え? 今日? 付き合うって……」
「この間、話してたじゃないですか。雑誌に載ってたお店ですよー。私、明日お休みで友達と約束してるんで、その前に行ってみて話してあげたいなぁ、なんて」

いやいや。だったら、明日、そのお友達と一緒に行けばいいんじゃなくて?

頭の中だけで間髪入れずに突っ込むけれど、実際に口に出すことは叶わない。
考え方の違いに唖然として、口を開けたまま見つめるのが精いっぱいだ。

「ダメですか?」

一歩歩み寄られ、上目遣いで零れそうな瞳をうるうるとさせられたら……。
無下にできない。そんな自分の甘さが憎い。

「……いや。別に用事もないから大丈夫だけど……」
「ありがとうございまーす! じゃあ、今日は早く仕事終わらせなきゃですねっ」

……うん。出来るなら、今日だけじゃなくて、いつもそういう気持ちで仕事サクッと終わらせるようにしてもらえたら助かるんだけどね。

明らかに浮足立って売り場に戻っていっているのを見た私は、彼女に聞こえないように溜め息をひとつ吐いた。
何とも言えない気持ちでいながらも、そのふわふわとした亜麻色の髪を靡かせる後ろ姿に魅入ってしまう。

「河村さん、優しすぎですよ」