「コイツ、本当に仕事となるとスイッチ入るやつだから。私情は基本、挟まないし。男以上に男らしくて、サッバサバしてるぞ?」
「ちょっと。それ、褒めてるんですか? 話の邪魔するなら出てってくださいよ」
「こういうタイプは、老若男女問わず、慕われるとオレは思うから。せっかくだから、もう少し働きながら、観察してみたらいいんじゃない?」
 
いや、観察って。私は虫とか植物か!
 
心の中で、声を大にして突っ込む。
ニコニコと悪気があるんだかないんだかわからない笑顔の横顔を見て、不信感を抱く。
 
この人だよね? この間、私を好きって言って、あんな人生であるかないかの三角関係的な展開をさせた人だよね? 
あれって、やっぱりただの冗談だったんじゃ。
 
疑惑の眼差しを向けると、諏訪さんもこっちを見た。
視線がぶつかると同時に、ニッと口角を持ち上げて笑う。

「オレがこんなふうに思う女、コイツだけだからさ。この先、なかなかこういうヤツの下で働けることないかもよ?」
 
その目は、この間の告白と同じ、真面目なもの。
不覚にも、またドキッとさせられた私は、平静を装うのに必死で目を逸らす。
 
すると、いつの間にか、俯いてた志穂ちゃんが私たちの方に顔を向けていた。

「……考えさせてください」
 
間を置いた後、ぽつりと零す。
そして、スッと立ち上り、「失礼します」と売り場へ行ってしまった。
 
志穂ちゃんが出て行った扉が閉まるのを見届けたあと、ぐりん!と顔を回して諏訪さんを睨みつける。