再び手を動かし、フォークをケーキにゆっくりと沈ませる。
光沢のある表面は、見た目とは違ってしっとりと柔らかな感触。
下へ下へとフォークを差し、幾重にも重なる層を断っていく。
「いただきます」
ついに、ひとくち分の欠片をフォークに乗せた。
それを、ぎこちなく開いた口の中へと導く。
グラサージュショコラのしっとりした質感と共に、甘みがゆっくりと広がる。
そのあとに、バタークリームやガナッシュの風味。
それを追いかけてくるように、コーヒーの苦みがした。
「この味……似てる気がする」
「似てる?」
あれはもう、約十年前のこと。味覚の記憶なんて、どこまで正確なものか。
それでも、今日までいくつも口にしてきたスイーツには、こんなふうに思ったことはなかった。
「前に話した、初めて自分で買って一番に食べたケーキって、オペラだったんです。そのときのオペラの味に似てる気がして。半分は涙の味だったけど、本当に美味しかったんです」
「そうなんだ。知らなかったから……。でも、そのオペラに余裕勝ち出来なかったのは悔しいな。ちなみに、それってどこの?」
「え? えぇと、確か、どっかのホテル……。あ、帝王ホテルでした」
苦笑する神宮司さんに、記憶を辿って店名を口にする。
私の答えに、彼は目を丸くした。
「どうかしましたか?」
「いや……。それって、何年くらい前の話だっけ?」
「高校のときだから、7~8年前ですかね……」
突然、思いがけない方向の質問に、きょとんとして答える。
それを聞いた神宮司さんは、難しい顔をして閉口した。
「神宮司さん……?」
その表情に不安を覚える私は、恐る恐る窺うように呼びかける。
光沢のある表面は、見た目とは違ってしっとりと柔らかな感触。
下へ下へとフォークを差し、幾重にも重なる層を断っていく。
「いただきます」
ついに、ひとくち分の欠片をフォークに乗せた。
それを、ぎこちなく開いた口の中へと導く。
グラサージュショコラのしっとりした質感と共に、甘みがゆっくりと広がる。
そのあとに、バタークリームやガナッシュの風味。
それを追いかけてくるように、コーヒーの苦みがした。
「この味……似てる気がする」
「似てる?」
あれはもう、約十年前のこと。味覚の記憶なんて、どこまで正確なものか。
それでも、今日までいくつも口にしてきたスイーツには、こんなふうに思ったことはなかった。
「前に話した、初めて自分で買って一番に食べたケーキって、オペラだったんです。そのときのオペラの味に似てる気がして。半分は涙の味だったけど、本当に美味しかったんです」
「そうなんだ。知らなかったから……。でも、そのオペラに余裕勝ち出来なかったのは悔しいな。ちなみに、それってどこの?」
「え? えぇと、確か、どっかのホテル……。あ、帝王ホテルでした」
苦笑する神宮司さんに、記憶を辿って店名を口にする。
私の答えに、彼は目を丸くした。
「どうかしましたか?」
「いや……。それって、何年くらい前の話だっけ?」
「高校のときだから、7~8年前ですかね……」
突然、思いがけない方向の質問に、きょとんとして答える。
それを聞いた神宮司さんは、難しい顔をして閉口した。
「神宮司さん……?」
その表情に不安を覚える私は、恐る恐る窺うように呼びかける。



