ドルチェ セグレート

 綺麗に磨かれたガラスのように、光り輝く表面。そこに金箔が点々と飾られて、まるで宝石のよう。

「……オペラ」
 
ケーキの正体を知った私は驚愕して、小さく唇を震わせた。
あの日、涙と共にのみ込んだオペラ。
 
けれど、神宮司さんには、あのときのケーキはオペラだとは言わなかったはず。
ということは、まったくの偶然のことで、他意はない。

それでも、このケーキを、まさか神宮司さんに渡されるなんて。
 
過去の些細な暗闇を彷彿させるオペラに、複雑な思いを向ける。

「これは、キミをイメージした。キミが……明日香ちゃんが。明日も笑顔になれるように」
 
そこで言われた言葉に、弾かれたように顔を上げた。
 
私をイメージして、私が、笑顔になれるように?
 
ドクドクとなる鼓動を押さえるように、片手を胸にあてる。
視界に映るオペラを遮るように、神宮司さんが簡易フォークを差し出した。
 
オペラを嫌いなわけじゃない。
大丈夫。少し、あの頃を思い出して切なくなるだけ。
 
そっと右手を伸ばし、フォークを受け取る。
オペラを包んでいるフィルムをゆっくりと回し剥がすと、今一度、その煌びやかなケーキと対面した。
 
フォークを艶やかな表面に近づけ、直前で手を止める。
 
私は、ケーキはひとつの芸術品のように感じている。
何気ないイチゴショートひとつでも、クリームのデコレーションの仕方が違っていたりして。
最近のケーキは特に凝ったデザインのものが多いから、それを崩してしまうのが惜しく感じてしまう。
 
それは、今も同じことで。
なにより、作ってくれた人が目の前にいると余計に、そんな気持ちが強くなってしまったりして。

けれど、パティシエ(神宮司さん)は、〝それ〟を望んでいる。

どんな形にされようとも、それを口に入れた瞬間の喜びを。