ドルチェ セグレート

「……もしかして、だけど。前に店休日に付き合ってもらったとき、少し様子がおかしかったのは、花音ちゃんといたのを見たから?」
 
私は神宮司さんと数秒目を合わせ、ぎゅっと両手を重ねて握る。
視線を彷徨わせながら、小さく一度、頷いた。

「そうだったんだ。……いや、なんかゴメン」
 
深く下げられた頭を見つめ、すぐには言葉が出てこなくて戸惑った。

すると、時間が経つにつれ、神宮司さんの様子が変化する。
下げた頭が一向に上がらず、そのうち、彼の大きな右手が、その見えない顔を覆った。
 
不思議になって、思わず凝視する。

「不謹慎だってわかってるけど、うれしくなっちゃって」
「え……?」
「不安になるほど、キミの中で俺の存在があったんだなって」
 
手のひらの隙間から、緩ませた口元を覗かせる。

堪え切れずに笑ってしまっているのだと理解すると、つられてフッと小さく笑いを零してしまった。
けれど、僅かに苦渋を滲ませた微笑になってしまっていたかもしれない。

「そりゃ……そうですよ。だって、神宮司さんって、わかんないことが多すぎるんですもん。花音ちゃんの存在も、私の存在価値も……。あの日は、ただ慰めの意味で一夜を共にしただけなんだろうって」
 
そのときのことを思い出すと、やっぱり胸が苦しくなる。
恨み節ということでは決してない。だけど、口に出さないと、ずっとしこりになって残りそうだから。

「あのチーズケーキをくれた夜以降、その日のことは、なかったことにされてたから」
「……ごめん」
 
吐露した本音に、真面目な顔つきで、再び頭を下げられる。
 
別に謝ってほしいわけではなかった。
かといって、こうして欲しかったとか、そういう具体的な願望もあるわけじゃない。
 
勢い任せで口にしてしまった本心に、どう答えるべきか困惑していると、神宮司さんがスッと顔を上げた。
迷いのない澄んだ双眸が露わになると、私の心の中心まで射るような目を向ける。