ドルチェ セグレート

 
まさか、こんな流れで?!と慌てふためくと、ズイッと目の前で見せられたものは、ランコントゥルの紙袋。

「明日香ちゃんの、幸せそうな顔」
 
彼は、ニッと口角を上げ、楽しそうに瞳を輝かせる。
勝手に甘い想像に走った自分を恥じて、頭の中で冷罵した。
 
バカ! なにを勘違いして……。
いくら気持ちを明確にしてくれたからって、こんな公然の場でいかがわしいことするわけないじゃない! 
それをちょっとでも期待してた自分が本当に恥ずかしい!
 
消えてしまいたいくらいに自分の思想を後悔していると、そんなことは全く気にしてない様子の神宮司さんが袋を差し出す。
それを両手で静かに受け取り、チラッと彼を見上げた。

「見せてくれる?」
 
そんな、はにかんだ顔で言われたら、仮に嫌だとしても断れないよ。
なんて、そんな考えは無意味だ。
初めから、断る気なんてないんだから。

「なんか、自分がどんな顔して食べてるかなんて見たことないので、ものすごく恥ずかしいんですけど……。どうぞ」
 
赤い顔を隠すように神宮司さんに背を向け、玄関のドアを開けた。
部屋に入り、受け取った袋をテーブルに置いてキッチンに向かう。

「あの、座っててください。今、お茶淹れます」
 
カップを用意しつつも、意識は手元じゃなくて後ろの方。
気のせいかもしれないけど、背中に視線が向けられてる気がして緊張する。

「今日。本当は、こんな予定じゃなかったんだけどな」
 
突然聞こえた声に、びくっと手を震わせた。
パッと振り向くと、胡坐をかいて座ってる神宮司さんが、視線を落として小さく笑う。

「まさか、こんなにドタバタするとは。予定が狂いそうになって焦ったよ」
 
淹れ終わったお茶を、神宮司さんの前にコトッと静かに置く。
そのまま、向かい合わせるように腰を落とすと、彼は上目で私を見た。