こういうのって、どう捉えたらいいんだろう。
自惚れじゃなくて、やっぱり、神宮司さんは私のこと嫌ってはいないよね? 
だって、こんなふうにわざわざ誘ってくれるんだもん。でも……。
 
昨夜の、諏訪さんが神宮司さんに迫った二択を思い返し、胸が痛む。
だけどこれは……前者の〝大勢の中のひとり〟に過ぎないのかもしれない。
 
キシキシと、心が軋む音が聞こえる。
少しの間を置いた私の中で、そんな迷いが生じた。――けれど。

「私も……。ちょうど、お会いしたいと思ってました」
 
ここで逃げちゃいけないんだ。だって、さっき思ったじゃない。
この人のケーキを、もう一度食べたいって。

『……ありがとう。じゃあ、待ってる』
 
この言葉が、もし〝特別な存在〟として言われたなら、どれだけ甘く、幸せな言葉だろう。

胸の奥が切なく音を上げるなか、そのまま返事をして電話を切った。

「かーわむらさんっ」
「ひゃあっ。し、志穂ちゃん? ど、どうしたの?」
 
背後から顔を覗き込まれるように、ひょっこりと出てきた志穂ちゃんに心臓が止まるかと思った。
携帯を両手で握り締め、肩を上げて振り向く。

「諏訪さんから電話あって。えーと、確か……急用あるから、ちょっと待っててって」
「え?! 電話?」

今、私が神宮司さんとの電話に集中してたときにあったのかな? 
全然気が付かなかった。

「なんか、バタバタしてたみたいで。諏訪さん、時間がなかったみたいで。すぐ切られちゃいました」
「そうなんだ。うん、わかった。ありがとう」
「それじゃ。お先に失礼しまーす」