ドルチェ セグレート

相手がこの子だ。なにを言われるのかわかんない。

そんな覚悟をこっそりとした上で、ニッと口角を持ち上げて返した。

「うん、まぁね」
「えー! 意外です! 甘いものとか食べてる姿、想像出来ませんね! だって、なんていうか、男らしいイメージ強いんで」
「……そう?」
「そーですよぉ!」

なんだろう。そんなニコニコ満面の笑みで遠慮なく言うあたり、褒めてるつもりなんだろうか。

『男らしい』って、褒め言葉??

内心理解出来ないものの、この場で、しかも志穂ちゃん相手に『褒めてないよね、それ』なんてことは言えない。というか、言っても通じないだろうから言わないほうが賢明だ。

「さ、もうお喋りはそのへんにして、仕事に戻るよ」
「はーい。あ、今度このお店連れていってくれませんか? 私、方向音痴でー。河村さんならサクッと近道とかしちゃいそう!」

レジカウンターを出てすぐ、ピタッと足を止めた志穂ちゃんは、可愛らしく肩を窄めながら振り向いた。

ランコントゥルに連れていくって、私が? 本気で?

『嘘でしょ』と半信半疑になりつつ、返答に困っていると、彼女は有無を言わせないような笑顔を向けてくる。

「ぜひ、近いうちに! お願いしまーす!」

ペコリと軽快に頭を下げ、そのまま軽やかな足取りで売り場に消えていく志穂ちゃんの背中にこっそりと溜め息を吐いてしまった。

……意地悪いな、私も。

気心知れてる友達相手なら、自分が好きなお店とか教えたくて仕方ないけど。
気持ち的に一線引いてる相手には、なんか素直にお勧め出来ないっていうか。

特別なものを、取られちゃう感じでモヤモヤしちゃう。

ずーんと頭を垂れて、子どものような独占欲を冷静に抑える。

仮に私が連れて行っても行かなくても、志穂ちゃんは誰かと行くかもしれないし。
それはみんな自由なわけだし。

何より、ランコントゥルのファンが増えるなら、あのお店も益々繁盛して安心じゃない。
この世の中、不況とかで、いつどうなるかなんてわからないんだから。
それは曲がりなりにも店長をしてるんだから、少しくらい理解できるでしょ。

深く息を吸って、ゆっくり吐きながら閉じていた目を静かに開ける。

「さ。仕事!」

あと僅かで終わる値段付け途中の商品に手を伸ばし、誰もいないレジカウンターでそう漏らした。