「律っ──!」

「逢坂くーん」


たまらず彼に歩み寄ろうとすると、4組の教室の中から女子の呼ぶ声に遮られた。

それに反応した彼は、一度彼女達の方を振り向いてにこりと笑みを見せると、またこちらに顔を戻す。


「悪いけど、もう俺に関わらないで」


その時の表情は、地中深くにある洞窟みたいに暗く、冷たくて。

私もキョウも、言葉をなくしてしまうほどだった。

教室に入っていく律を、黙って見ているしかない。


「どういうことだよ……」

「逢坂くん、あたし達が想像もしてないような事情を抱えてるのかもね」


深刻そうな顔をするキョウとありさ。

同様の私も、ざわついて苦しい胸元のシャツをぎゅっと掴んだ。


教室に戻った律はいつも通りで、笑って女子と話している。

きっとあれは上辺の笑顔。

もしかしたら彼は、ずっと何かで苦しんでいて、それを隠すために明るく振る舞っているのかも──。



律の謎は深まるばかり。だけど、どうにもできない日々が続く。

いつの間にか期末試験も迫っていて、彼のことばかり考えてもいられなくなっていた。