「っ!」


私とありさはひゅっと息を呑み、彼らの周りにいたクラスメイトがざわめいた、その瞬間。


「お前、どれだけ小夜のこと傷付けたと思ってんだよ……!」


緊迫感を増す空気の中、静かな怒りをたたえたキョウの重い声が響いた。

キョウ、私のために……。

胸がぐっと苦しくなって、声も出せず固まっていると、キョウはすぐに律から手を離して踵を返す。

皆の注目を浴びながらこっちに歩いてきた彼は、「行くぞ」と言って、私とありさの横を通りすぎていった。


我に返った私達は、慌ててキョウを追い掛ける。

その去り際にちらっと見た律は、乱された制服を直そうともせず俯いていた。

表情はわずかに苦しげに見えたけど、はっきりとはわからない。

今、律は何を考えているんだろう……。



騒ぎを知らない私達のクラスに戻ると、和やかな雰囲気ですごくほっとした。

いつもの無表情で自分の席につくキョウのそばに、私達もそろそろと近付く。

なんとなく私と目配せしたありさが、遠慮がちに口を開いた。


「……恭哉があんなふうに怒ったとこ、初めて見たわ」