「だから、用があるなんて言って帰ったことにしたの……?」

「薬が効いて、動けるようになるまで時間かかるからね」


まさか、律がそんな状態だったなんて。

何も知らなかった自分が、すごく悔しい。


「海で告白してくれた時も、急に手が震えてきて。それを隠すために、冷たいこと言って突き放した」


律は徐々に無念さを露わにして、まだ震えが残る手を、弱々しく握りしめた。


ごめんね……私、何もわかってなくて、本当にごめん。

謝ってもどうしようもないけど、どうしても罪悪感は湧いてきてしまう。


「自分がそばにいるのに、俺がなんとかしてやりたいのに……何もできないって、すげぇ屈辱なんだよ」


悔しそうな声を吐き出した律は、潤んだ目で私をとらえる。


「今だって、小夜を抱きしめたいのに身体が動かない。何で、涙を拭いてやることすらできないんだ……」


その綺麗な瞳から、一滴の雫がこぼれ落ちる。

同時に、私の目からも大粒の涙が溢れた。