ズキン、と胸が痛む。

えっちゃんは悩むように一度目を伏せると、「今だから言っちゃうけど」と前置きしてから、思いもよらない一言を口にする。


「小夜ちゃんの15歳の誕生日に出した手紙、本当は俺じゃなくて、律が書いたものだったんだ」

「…………え?」


一瞬、思考が停止した。

“律のことは、忘れてほしいんだ”と書かれた、あの手紙。

あれは、律がえっちゃんのふりをして書いていたっていうの?


「えっ……な、何でそんなこと……!?」

「俺も呆れたよ。いきなり、『越の名前借りて小夜に手紙出しちまった』なんて事後報告されてさ」


頭を混乱させる私に、えっちゃんは苦笑しながら言った。


「病気のことや、自分の気持ちを何度も書こうとしたらしいんだけど、文章めちゃくちゃだし、どうにも手が動かなくなるって。
だから俺になりすまして、律のことは忘れて……とだけ書いたって言ってたよ。なかばヤケだったのかもしれないな」


そっか……本当は真実を伝えようとしてくれていたんだね。

ずっと私達を突き放していた理由も、ようやくはっきりした。

律は、変わっていく自分を隠していたかったんだ。

私達が不快な思いをしないように、たったひとりで病気と闘っていくつもりだったんだ……。