目の前に迫ってきた、小さな踏切を越えて少し歩けば大通りに出る。

そうしたら、喫茶店はすぐだ。

あと少し。少しなのに、今の俺にとってはそれがものすごく遠い。


……でもダメなんだ、諦めちゃ。

動かなきゃ、俺はここまでの人間だって認めることになる。

好きな人を、傷付けただけで終わっちまう。


そんなことにしたくない。

彼女も、昔の約束も守れないうえに、想いを伝えることさえできないなんて──。


肩で息をして、朦朧としながらも足を出す。

しかし、震えと痛さでどうにも歩けず、膝に手をついて立ち止まった、その時。

耳元で大きな音がした気がして、びくりと身体を揺らした。


カン、カン、カンと、一定の音で鳴り続けるそれは、耳元でしたわけではなく。

俺の前後で警告する、踏切の音だった。


「嘘、だろ……」


思わず情けない声が漏れた。

今、俺がいるのは線路の真上。不思議なほど周りには誰もいない。

早く、早くここから出ないと……!

そう焦るほど、身体が動かなくなる。足は地面にくっついたように、離れてくれない。