少し先を歩いていた彼に駆け寄り、がしっと腕を掴んだ。


「うぉ、何だよ」

「ちょっと、ねぇキョウ! あれ、誰に見える!?」


驚くキョウに、興奮気味に前方を指差してみせる。

けれど、これだけの説明で伝わるはずもなく、彼は眉間にシワを寄せてキョロキョロするだけ。


「あれってどれ」

「あれだよ、あの男子! あ、今外出た!」

「はー?」


混乱するキョウの腕を引っ張り、体育館から出ていった彼を追い掛ける。

周りの皆が不思議そうに見てくるのにも構わず、人混みをかい潜って私達も外へ出た。


「おい小夜、いったい……」

「ほらあそこ見て! 髪の毛ちょっと茶色くて、ひとりで歩いてるあのイケメン」


さっきよりもよく見える姿を、また指差す私。

渡り廊下の角を曲がり、彼の横顔がはっきり見えた瞬間、キョウが目を見開いた。


「え……あれって……律?」

「そう見えるよね、やっぱり……!」


私達は彼から目を逸らすことができず、その幼なじみらしき姿が見えなくなるまで、しばらく無言でその場にたたずんでいた。