男子の一番長い種目は自由形の1500メートル。
何度もターンを繰り返す、過酷な種目。


「でも俺、バタフライでも200より100が得意。長距離より短距離なんだ」


それは知っている。
彼の200メートルのタイムも、全国レベルではあるけれど、表彰台に近いのは100メートル。


「それに、ずっとフリーを専門として泳ぎ込んできた選手に比べたら、経験も練習量もまったく足らない」


結城君は練習の時よくクロールも泳いでいた。

だけど、やはり専門でない種目の泳ぎ込みは足りないし、フォームも積極的に直してきたわけだはないだろう。


「でも、結城君は、水泳が好きなんだよね」

「チョコちゃん……」


今まで第一線で活躍してきた人が、ゼロからのスタートを切るのは勇気がいる。

いやでも、ゼロじゃない。
彼が泳ぎ込んできた距離は嘘をつかないはず。