やがて、本当なら結城君がエントリーしていたはずの、100メートルバタフライが始まった。
「病院の先生が……」
すると結城君は突然口を開いた。
「もう、バタフライは諦めた方がって……」
「そんな……」
ハッとして彼の顔を見つめると、視線を電光掲示板に移した彼は、「もう、あそこに名前を載せることすらできないかもしれない」と切なげな声でつぶやく。
全国大会に出るどころか、選手生命の危機にあるなんて、ちっとも知らなかった。
それなのに私、すごく安易なことを言って彼を傷つけてしまった。
気がつけば、涙が勝手に溢れていた。
止めようと慌てれば慌てるほど、止まらない。
「ごめんなさい」
どうしようもなくなって席を立とうとすると、結城君に腕を握られ、止められた。



