大きく深呼吸したように見える結城君は、一度プールに視線を送ると、スタートの姿勢を作った。
――用意、ピッ。
いよいよだ。いよいよ始まった。
飛び込んで浮き上がって来た時点で、結城君は頭ひとつリードしている。
そして、ターンを繰り返すたび、後続の選手との距離が開いていく。
1ストローク2ビート。
片腕でひとかきする間に片脚で1回だけキックするというこの泳法は、長距離の選手ならでは。
皆同じ泳ぎ方なのに、結城君は1ストロークで進む距離が圧倒的に長い。
この見事なレース運び。
持ちタイムがない選手だとは思えない。
「さすがだな」
小栗君がそうつぶやくと、脇田君もうなずいている。
長時間に渡るレースなのに、私たち3人は誰ひとりとして視線を逸らすことはなかった。



