「えっ! それじゃ、俺が出てる試合にも来てくれたりしたの?」

「……はい。全中の県予選は行きました」


こんなに会話が弾むなんて、予想外。


「うれしいな。水泳って個人競技だから、試合も淡々としてて。だから試合を見に来てくれる人は貴重だよ。でも、リレーはすごく盛り上がるから、よかったらまた別の試合も来て」

「はい!」


リレーじゃなくても十分盛り上がっている。
結城君が精神を研ぎ澄ませ、スタート台に立つだけで、息が苦しくなるほどに。


「やるね、茜」


結城君が行ってしまうと、理佐が私をからかってくる。


「そんなことないよ」


たまたま水泳の話ができただけ。
それで大満足だったけれど。


「でも、いい雰囲気だったよ」

「ありがと」


それでもまだ、今は結城君の応援団でいたい。
特別棟の廊下から、こっそり眺めて見られるだけでいい。


「チョコ、好きなんだ」


結城君の知らなかった一面を知れただけで幸せになるのは、恋の醍醐味。

彼を待ち続けたから、他の出し物を見て回れなかったけど、まったく後悔はなかった。