「うん。あそこからこっちに手を振ったことを思い出して」
「そっ、か」
以前、泳ぎ終わった結城君が、手を振ってくれたっけ。
あの頃は、本当に楽しかった。
「香川は、来ないの?」
当然の質問だった。
でも胸がつぶされる様に痛い。
「うん。言ってないから」
その答えに結城君は首を傾げた。
「ね、さっきの見た?」
「うん。大会新、すごかったな」
話題を変えたのはもちろんわざと。
せっかくふたりでいられるのに、卓君の話はしたくない。
「皆、ここからオリンピックに向かうんだよな」
結城君は、しみじみとした様子でそう口にする。
今、日本代表として第一線で活躍している選手も、この舞台で泳いでいる。
「来年は結城君も、ね」
焦らせるつもりはない。
でも彼は、きっとそう思って見に来たはず。



