「そんなのあんまりよ。結城君は……」
「榎本さん」
結城君は私の言葉を遮った。
「俺はまだ泳げる。もう一度、全国を目指すつもりだ」
少しも声を荒げずそう口にした結城君は、エナメルバッグを肩から掛けた。
「それと、ゆっくり歩いてやれ」
「は?」
「榎本さん、足痛そうだから。じゃあまた」
結城君はそれだけ言い残して部室から出ていく。
足って……。
さっき裸足でストップウォッチを取りに来たとき、尖った石を踏んでしまってケガをしたけれど、そんなこと誰にも言わなかったのに。
「茜、足どうかしたのか?」
「ちょっと石を踏んじゃって。でも、大丈夫だから」
足の裏をケガした右足をかばうように歩いてはいたけれど、気がつかれない様にしていたつもりだった。



