「卓君は?」
彼の話を聞けば、どうして結城君に対していらだっているのか、わかるかもしれない。
「俺も普通」
「そんなことないよ。だってずっとバタフライ頑張ってきたんでしょ?」
「でも辞めたしな」
それはそうだけど……。
「辞めたのは、受験のため? お父さんがお医者様だって聞いたけど」
私がそう口にすると、彼は突然歩みを止めた。
「そうだ。医学部に行くためだ」
結城君の言っていた通りだった。
でも、なぜか眉間にシワを寄せ怒りをあらわにする彼は、唇を噛みしめる。
「ごめん。それなら水泳部に誘ったりして、邪魔してるのかな……」
「それはない」
彼が再び歩きはじめたから、私も横に並んだ。
「それはないから、安心しろ」
えっ……。
今、私をかばってくれた?
意地悪ばかり言っていた彼が、まさか……。



