「水筒取ってくれ」
「はい」
無表情のまま渡すと、彼は眉をひそめる。
私はあなたの彼女かもしれない。
でも、心はあなたのモノじゃない。
結城君が泳いでいく姿を見ながら、唇を噛みしめる。
結城君が泳げればいい。
彼の夢が叶うなら……。
「チョ……榎本さん」
もう『チョコちゃん』と呼んでもらえないのが辛くてたまらない。
「どうしたの?」
結城君はメニューを途中で切り上げて、上がってきた。
「うん。ちょっと腰に違和感があって」
「えっ! どうしよう」
また悪化したら、と不安になったけれど……。
「大丈夫。大事を取って上がっただけ。もう同じ過ちは繰り返さないよ」
「うん」
彼の言葉にホッとして、力が抜けていく。
「大丈夫? 歩ける?」
「うん。平気」



