「ちゃんと大切にしてやるよ」
「えっ?」
「お前がそんなに泣くとは思わなかった」
その時初めて、弱気な卓君を見たかもしれない。
でも、騙されない。
「してくれなくていい。私はあなたを好きにならない」
絶対に、好きになんて……なるはずがない。
「わかったよ! でもな、好きじゃなくても、キスできるんだぜ」
握られたままの腕を更に引かれ、気がつけば彼の顔が目の前に。
「イヤッ」
唇が触れる寸前で顔をそむけると、彼はやっと私の手を離した。
「お前が俺の女だってこと、忘れるな」
怒りに震えるというのは、こういうことを言うのだろう。
今度こそ駆け出すと、彼は追いかけては来なかった。



