「ありがと。でも結城君……」

「うん」


それきりなにも言えなくなった。
私にできることなんてなにひとつない。

泉が持ってきてくれた資料に視線を落としたけれど、視界が滲んで文字が見えなかった。


「茜、平気?」

「うん。結城君は、もっと辛いから……」


泳ぎ切ることができず、水面を叩いたあの時、彼はどんな気持ちだったのだろう。


「そうだね。茜が励ましてあげられるといいんだけど」


でもそんなこと安易にできない。

あれほど無理をして頑張った彼に、もっと頑張ってなんて言えない。


それから話は堂々巡り。
でも、ずっと競泳の――いや、結城君のファンであり続けることだけはやめないと誓った。


ふたりが帰ってしまうと、突然寂しくなった。


「あっ」


カバンの中にマフィンが入っていることを思い出し、取り出した。