辺りが濃紺の闇に包まれた頃、外で動きがあった。
「あれ、戸張さんじゃないっすか?」
声をかけてきたのは同じような黒い服に身を隠した体の線の細い男だった。
「まじかよ。なんでここにおまえがいるんだよ」
「やっぱりー! へっへー。じゃないかなって思ったんすよね。その歩き方、特徴的なんすよ」
「黙れよ。お前なにしてんだよこんなところで」
「やだなあ、同業のくせに。大丈夫ですよ、そこは狙いませんから。俺はあっち」
戸張、と声をかけられたのは、件の地下室に閉じ込められ、なんとか脱出に成功しメイをつけ回している、あの『男』のことだ。
「この時期はここら辺で仕事したほうが儲かるって教えてくれたの、戸張さんじゃないっすか」
にこやかに話しかけられても戸張は全然そんな気になれなかった。
兎に角、早くこの場を去れ。そう願っていた。しかし、この場所を教えたのも自分だし、この仕事に導いたのも自分だ。
無下に突き放すこともできない。
「まじで、狙った女がすげーいい女で今夜決行するんですよ。もうまじ、たまんねーっていうか」
お前の話なんて聞きたくない。さっさと切り上げよう。戸張は偶然にも出くわした中西のことなどに構っている暇はなかった。

