「春ちゃん、それ、誰かに言った?」
「はい」
「うそ。誰に言ったの」
「やだ、何そんなに焦ってるんですかあ? 今こうしてアリさんに話してるじゃないですかあ。ほんと、おかしいですよー」
けたけた笑う春はあっけらかんとしていた。
「そっか。よかった。俺だけ?」
「そうですよお」
「実はね……俺も」
「あー……やっぱり。だからあ、あの二人は気まずくなって帰ったんですよお。佐々木さんは気づいてないか、もしかしたらそんなことはどうでもいいって思ってるかもしれないけどお、でも彼女たちは私たちに見られちゃったから、恥ずかしくなって帰ったんだと私は思いますよお」
「うん。俺もそう思う。そう考えると辻褄があう、でも誰にも言えなくて言ってなかった」
「ですよねえ。この話、私もメイちゃんに言えないですもん。メイちゃんたちにします?」
「……いや、これはプライベートなことでもあるから俺たちの中でとどめておこう」
「はーい。アリさんがそういうならそうしま~す」
春はアリにっべたり抱き付くと胸に顔を埋めて幸せそうな顔をした。
自分しか知らないと思っていたことを春も知っていた。
春がくっついてくるときまって春の背中に手を回していることになど、当の本人はまだ気づいていなかった。
そう差し向けている春は一人満足そうににゅっと唇の端を伸ばしていた。

