一緒にいるあの男から離れた時が狙い目だ。
俺が見ているのを知っていても一緒にいる男に何も言わないこの状況こそ怪しい。あいつは俺のことに気付いている。でも男には何ひとつ言わない。
俺に近づいたら自分の素性がバレる。
そうなったら困るからこその態度だろう。
「やっぱりこの女で決まりか」
にやりと笑った男の顔を視界の片隅で捉えたメイは背筋がぞくりと震えた。そして、
小太郎に分からない程度に口元を緩ませた。
「メイはどう思う?」
「て、何が? いきなりびっくりした」
「春麗とアリだよ」
「ああ。それか。きっと春はひと夏の思い出くらいにしか思っていないと思う。学校始まったらきっと忘れちゃうんじゃないかな。春は男の子は近くにいてくれないとダメなタイプだから」
「ってことはメイちゃんは平気なの? 俺と離れてても?」
「何言ってんの? 平気じゃないからこうやってずっと一緒にいるんじゃん。我慢してるんだよこれでもさ」
「なにそれ。かわいい」
「かわいいこと言ってないし。卒業したら一緒にいられるから、それまで我慢してるんだよ」
「おう。頑張る俺」
「ん(単純だなあ)」
優しく包み込むような笑顔の小太郎に、少しだけ顔が赤くなったメイは、はにかむような笑みを向けた。
そんな様子を双眼鏡でじっと眺めていた男は、
「クソ。やっぱ角度が悪いのか顔がっはっきりわからねえじゃねえか」
顔を見せないように上手に角度を変えているメイのことになど全く気付かなかった。
なんとしてでも顔を確認しておきたかった。イラつきから腹の中が煮えたぎるのをグッと堪えていた。

