「よし、ここから出て行けそうだな。お前の話だとここから入ってきたってことだよな?」
「そう。だけど、ここから行けるって?」
「出るんだよここから。外から入ってきて出てったんだから、こっからでも出られるだろ。なんかしら道はあるだろ。さっさと外出ねえと次は確実に殺されるぞ」
「そんな……殺すなんてそんなことありえない」
「おまえバカか。現にやられてんだろうが。ありえない状況がそこに転がってんだろ。見ろ」
男が転がっている静を顎でしゃくった。
「静……」
声は震えて掠れていた。
首もとを更に強くおさえた。静の姿を見て、自分もこうなるとでも思った。タオルをTシャツの中に押し込んで首元を隠した。
「今ならここから出られるはずだ。あいつも外の様子やほかの奴らが気になって散漫になってるはずだ。いいか、ここから出たら俺はあの女を殺す」
「殺すって、嘘でしょ」
「本気だよ。目的が変わった。でも、あいつはまだ近くにいるはずだ。だから油断するな。そしてあいつはどこかで俺らを狙っているはずだ」
「あなたは死んでるって思われてるんじゃない?」
「それはねえな。そこまでバカじゃねえだろ」
かろうじて溝があった。鍵穴の類はない。ということは、押すか引くかスライドすればこの扉は開くはずだ。
「おまえはすぐに逃げろ」
「逃げたいよ。けど逃げられない。みんなに知らせなきゃ」
「んなもん逃げてから電話でもなんでもすりゃいいだろうが。そんなことやってると殺られるぞ」
「そんな。でもみんなを見殺しにできないよ」
「じゃ、俺と一緒に殺しに行くか?」
男が試すようなことを言った。
それには答えることができなかった。
「分かったな。まずは身の安全を確保して、それから連絡でもなんでもしろ。いいな」
「……うん」

