A RUTHLESS KILLER


 男は涼子が生きていることに心から嬉しく感じた。こんな気持ちになるのは初めてといっても過言ではなかった。子供の頃から悪さばかりしてきた男は、友達を苛めて泣かせても、友達の大切なものを壊しても、友達が悲しんでいても特段思うことはなかった。

 冷たい目で見下ろし、もっと苦しめばいい。そう思うほどだった。

 涼子は血のついたタオルで首もとを強めに拭うと、更に強く抑えて止血を試みた。


「あなたは?」


 目を細めて男の顔を覗き込むが、その顔に見覚えは無かった。


「俺か? 名乗るほどのものでもねえよ。でもおまえらと同じくあいつに殺されかけてここにいる」

「あいつって、誰に? 顔見たの?」

「知らねえよ。でもあれは女だった」

「あなた、知らないの? 彼女の知り合いじゃないの?」

「………まあ、あとで分かることだから言っとくけどよ、俺はここに来てる女を襲おうと思って忍び込んだんだよ。まあ、その時に捕まっちまったんだけどな、あのクソ女に」

「……や、うそ」



 するすると壁を背に下がろうとしたとき、その声は悲鳴に変わった。

「しーーーっ」

 咄嗟に男が涼子の口を押えた。取り乱して暴れる涼子に、



「おい、静かにしろ! 大丈夫だ。何もしねえ。そんな気になるかこの状況で。約束する。なんもしねえ。いいか、とにかくここから出るのが先だ。そのためには一人より二人のほうがいいだろ。分かったか? 悲鳴上げて見ろ。あの女、すぐここに来るぞ。いいな、黙ってろよ」


 頷く涼子は呼吸こそ荒いが落ち着きを問り戻し、視線を自分のすぐ横に流した。


「ちょ、こ、こ、これって……」

「ああ。こいつか、さっき殺られた。助けらんなかった」


 静の変わり果てた姿を直視しないように呼吸を荒げながら反対側を向いた。