キッチンの方で何かを落とす音がした。
誰かいる。
そう感じ取った殺人鬼は、笑みを浮かべながら耳をじっとそばだてた。
何人いる? 一人か? 二人か? もっとか。いや、一人だ。そしてそいつは隠れている。なるほど。地下を見たんだな。
「ふっ」
笑いがこみあげた。思わず声がもれた。
こんなところで隠れてもすぐに見つけられる。それに、ここはお前よりも詳しい。
「さあ、出ておいで。どこに隠れてるの? 出てこないなら、こっちから見つけに行くよ」
甘い声で呼びかける。キッチンに隠れているならば調度良い。そこで始末してやる。
足音をたてないように歩きながら、一度しまったナイフを腰から抜き、舌なめずりをしながらゆっくりと回り込んだ。
「みぃ……つぅけたぁ」
キッチンの下で震えているのは涼子だった。
「ご、ごめんなさい。見るつもりじゃなかったの。トイレに行こうと思ったら音がしたから、そしたらその、その、あの、だから……誰にも言わないから、ごめんなさい、許して」
キッチンの下から這い出してきて尻を擦りながら壁づたいに逃げる。
「だから。見逃して。お願い」
震える声で懇願する。
目からは大粒の涙。体中が震えていて力が入らずに立てない。

