A RUTHLESS KILLER


 いつものようにすんなりと地下室に入りこんだ。そもそもこれが最初じゃない。

 過去にも何度かこの中で『獲物』たちと遊んでいる。みんな恐怖に怯え震えていた。それを見て興奮した。

 しばらく壁に背中を張り付かせ、二人の獲物の気配を感じとれるまで待つ。呼吸を回りの空気と合わせた。

 人が一人入っただけでその場の空気はガラッと変わってしまう。それに気づかれないようにしなければならない。

 暗闇でも目は利くほうだ。それに、暗くてもどこに何があるか、はっきり頭に入っている。

 女の位置を確認すると、やはり思った通り自分が落ちたトランポリンの下に座っている。こんな状況下におかれてもうとうとするとは、本当のバカとしか言いようがない。

 男はどこだ。反対側のトランポリンの下に視線を送るがそこに男はいなかった。


 いない?!


 くそっ。どこだ。緊張が走った。体を強ばらせる。

 全身全霊に力をこめて空気を読む。男の気配を感じとる。

 近くに今気配はない。目だけを左右に走らせた。どこだ。
 まさかと、トランポリンの上に視線を上げれば、男の影が見えた。

 ほっとしたのと同時に気が緩んだ。鼻から息がもれた。



「あ?! おまえなんか今言ったか?」


 即座に男は女に話しかけたが、女はうとうとしていて聞こえていない。


「ちっ。この雨のせいで集中できやしねえ。なんにも音が聞き取れねえ」

 体を揺らして定位置を確かめ、同じ姿勢になって一呼吸つくと、じっと固まって頭上の扉を見上げた。



 危ない。気づかれるところだった。この男には気を付けないと。


 気づかれないように、音を出さないように、雨の音に合わせて唾を飲み込んだ。