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既に面倒くさくなってきていた。さっさと殺してしまえばよかったのだ。
地下室に通じる仕掛け壁の外から耳を当て、中の様子をうかがっていると、人が歩き回る音が雨音に混ざって聞こえてきた。
黒いラバースーツに身を包んだ『殺人鬼』はあの二人がドラム缶から脱出したんだと確信すると憚ることなく舌打ちをした。
「くそ。あの時さっさと殺しておけばよかった。こうなってくるとやっかいだな。どこで失敗した? どこで間違えた?」
親指の爪を噛みながら眉をぎゅっと寄せた。
さあどうする。あいつらはこの中で自由に動き回っている。一人ならまだしも二人だ。それに男の方はもしかしたら同じような類いの奴かもしれない。
何人か確実に殺ってきているにおいがする。同じ筵(むしろ)のなんとかは色がついているのですぐに分かるものだ。
「となると、まずはあの女から片付けるとするか」
あの女はは簡単だ。赤子の手を捻るように楽に殺せる。
問題はどうやってあの女を一人にするかだ。
寝るのを待つか。女の方は寝たとしても男の方は警戒して寝ないだろう。こちらを殺そうとしてくるに違いない。
「……待て。この雨音が使えるじゃないか。そうだ、これだ。この音はこっちの味方になる」
三日月のように薄く唇を引き、綺麗な形の唇の間から真っ赤な舌を出して唇を舐める。
体を壁にくっつけて耳をぎゅっと押し当てた。

