そんな静の頭を撫でて、ふふ。と笑い、

「そんなに寂しがらなくてもいい。もう一度戻ってくる。君たちの最後はちゃんと見届けないとね。できれば死ぬ寸前くらいに戻れたら一番楽しいんだけど。それまで持ちこたえてくれる? そうしてくれると、生死の狭間をしっかりと見届けることができるよ」


 それを聞いた男もだんだん鼻息が荒くなってきた。汗が土と混じり気持ちが悪い。


「そろそろ上に戻らないとみんなに怪しまれるから。名残惜しいけど戻るね。また三日後に。どうなってるか楽しみだ。ああ、残念だなあ最後まで見られなくて」



 静の声にならない悲鳴が男の耳に届いた時、男は目の前で高らかに笑っている奴を睨みながらも手首の紐を切るために土を少しずつ指で掘り、腰に隠してあるナイフへと近づけていった。

 体を動かそうと試した時に腰に懐かしい固さがあるのを感じた。これで助かると確信した。ナイフを隠し持っていることを確認しなかったことに男は首をかしげたが、それが幸運にも繋がった。



 部屋の明かりを消されて真っ暗になった地下室には静の声にならない悲鳴がこだましていた。

 男は静の方を向き、黙れと怒鳴るが声は鼻から漏れるだけ。

 落ち着きを取り戻させなければパニックに陥り、そのままにしておけば気が狂ってすぐに死んでしまう。人は案外あっさり死ぬものだ。

 とりあえず一人よりは二人。あいつをぶっ殺すまでは死ぬわけにはいかない。

 固まった土を崩そうと何度も何度も体を揺らした。都度、手首の紐も緩むが、紐と皮膚がこすれて皮がむけている。染みる。

 染みるくらいならなんてことはない。我慢して手首を回転させてだんだんと緩めていく。

 口をもごもごと動かして舌でテープを舐めて濡らし粘着を解いていく。

 あいつはバカだ。人を拘束する経験もろくに無い。口にだけにしか貼っていない。これならすぐに取れる。男は長年の経験からどうしたらテープが取れるのかを心得ていた。


 唾をテープにしたし隙間を作りそこから舌でテープをこじ開けた。



「黙れ!」



 外に漏れない程度の声で怒鳴ると、波が引くように静の悲鳴がやんだ。

「今助けるから。それまで黙ってろ。いいな」

 暗闇で分からないが男の方を向いて力の限り頷いているのが空気で分かった。

 男は必死に手首を動かし腕を力任せに動かして土を柔らかくした。もう少しで腰に手が届く。

 外の気配を充分に感じ取りつつ、肩で土を外に押し出しながら口元のテープを土に擦り付けて全部剥がした。



「っ。あのクソ野郎が。あいつぜってーぶっ殺す」





 腰のナイフに手が届いたとき、男は慣れた手つきで紐を切っていった。