夜。


「お願い、やめて。なんでこんなことするの」

「君がここに来ることだって気にくわなかった。それにあの光景だって……」

「違う、あれは」

「佐々木も人が悪い。そんなことをしに来るとはね。隣にいる僕たちのことを思いながらしてたのかな」

「そんなことない。考えてもいない。だからっ」

「それなら余計悪い。ほら、逃げなよ」


 ナイフを回しながらゆったりと近づく。

 朝霧静は恐怖に膝が震えうまく歩けなくなっていた。

 ログハウスの前の湖は昼間みんなで泳いだりしていたところ。静は足をもつれさせながら殺鬼から逃げていた。白くひかるナイフには月の光りが反射して、湖と同じように輝いていた。自分を殺そうとしているのだから、男だろうが女だろうが関係なく『殺人鬼』としか思えなかった。

 恐怖を味わわせて、逃げる静を楽しそうに見ながら追いかけてくる。

 逃げるところなんてどこにも無かった。

 あるとすればそれはみんなのいるところだ。しかし今ログハウスには灯りは灯っていない。

 みんな寝静まってしまっている。