「この中に殺人鬼がいるって言ったな?」刑事はアリの肩を掴み低い声で聞いた。
「は、はい。中に。あやうく……あやうく、殺されるところでし、た」
「で、誰だ。どんなやつだった」
「わ、わ、わかりません」
「殺されそうになったんだろ?」
「はい、でも、パニックでなにがなんだか」
「男か? 女か?」
「……ちょっと、覚えてないです。でも、本当に中にいるんです! すぐ捕まえないと逃げちゃ……」
「何やってんだよ中で。なんで殺人鬼だって思ったんだ?」
「……わ、わかりませんけど、人を、こ、殺してたりしたから」
「見たのか?」
「い、いえ。あ、はい、いえ。ほ、包丁持ってにやにやしてましたか、ら、たぶん」
「包丁持ってにやにやしてたことまで分かるのか? 冷静だなあ随分」
「……あの、あの、もしかして、僕のこと疑ってるんですか?」
「なんでそう思うんだ? なんかやったのか?」かまをかけた。
「……か、過去の僕はもういませんよ! 信じてください!」
この場をどうしのごうか考えてきたアリだったが、戸張がいることによって冷静さを失った。
「過去のおまえって、それはなんのことだ?」更にかまをかける。その顔は楽しそうににやけていた。
「そっ……それは」
「なんかやったんか?」
「いえ……」
「人でも殺したのか?」
「そんなこと……。過去は過去でちゃんと精算しました! もう昔の僕じゃない! 今は違う。早く、早くあの女を捕まえて!」
「あの女? 今女っつったな? 男か女か覚えてないんじゃなかったのか? で、誰のことだ? その女の名前言ってみろ」
「し、知りません」
「……おい、兄ちゃん、もうそのへんでやめようや」
言葉を遮った戸張は、頭をかきながらアリの方へ一歩近づいた。

