「アリ、なんかあれだぞ。春麗おまえ狙いらしいから気を付けろ。あいつは危ないぞ」
「えーそうなの? 高校生にそう言ってもらえるなんて光栄だなあ。って、なに気を付けろって。彼女が何かするの? それに僕今のところそういうのいらないからさ」
「おまえはな。おまえはそうでも相手はそうじゃない場合、押して押して押し込まれて飲まれることがある。とくにあいつはそれが上手い。何回もそうなった男を見てきてる」
「嫌いじゃないね、そういうの」
「おい」
「うそうそ。わかったわかった。気を付けるよ。ちょっとそこのアルミホイル取って。鶏丸ごと包んじゃうから」
「鶏まるごとって、なんかすげえ豪勢じゃね? 俺らこんなに甘えてていいの? 金も払ってねえし、なんの用意もしてねえけど。食材全部おまえ持ちだけど」
「何言ってんの、お酒持ってきてくれたじゃない。僕一人だったらこのキャンプすらできなかったんだから。そんなことは気にしないで楽しもうよ」
「じゃあ、素直にお言葉に甘えて」
「そうそう。それでこそ小太郎だよ」
アルミホイルで包んだ鳥肉にも塩コショウを叩き、足の間をくりぬいてある部分に缶ビールを差し込んだ。
「おいアリ。おまえ何やってんの。それかなりエグイぞ。見てらんなえっていうか、なんなのそれ」
鳥のお腹に缶ビールを差し込み鳥を立たせるように置いてオーブンに入れるアリを怪訝な目で見た。
「見た目は残酷でひどいけどね、でも、ビールをこうして体内に入れて蒸し焼きにするとね、柔らかくておいしい肉になるんだよ」
「まじか。どこで仕入れてくんだよそういう情報」
「いいから、小太郎は早く野菜切っちゃって。まだ残ってるよ」
「わりい」
小太郎はニンジンに包丁を落とし、アリは鳥をオーブンに入れる。
鳥を入れ終わったあと、アリはボールにミルクと寒天を解き、その中に缶詰のみかんを入れてミルク寒天を作り始めた。
小太郎が、「なんでそんなもんいるんだよ。誰が食うの?」と聞けば、
「女子にはデザートが必要でしょ? デザートがいくつかあれば夜も部屋に帰らないでずっといるよ」と、悪気もなく言った。

