狂ってる。

 戸張は今見た光景に驚愕した。と同時に下腹部ににぶい甘みを覚えたが、


「ふざけんな。俺はこいつらとは違う。俺は快楽殺人はしねえ。いや、こいつらはそもそもが狂っている。頭がおかしいんだ。殺人鬼だ」

 春とアリは慣れた手つきで、佐々木を解体しながら食っている。

 肉を切る音、内臓が潰されるなんともいえない、今までに聞いたことのない音が戸張を更に恐怖に縮こまらせる。

 隠れて見ている戸張の手は震えていて、とてもナイフを投げられる状態じゃなかった。

 今のところおとなしく成り行きを見ているしかなかった。なるべく見ないように、二人の気配だけに集中するようにした。

 この解体が終わってからひとりずつ片づけても遅くはない。と、自らを奮い立たせるために精一杯強がっていた。

 殺すのは簡単だ。男から殺す。女は後だ。その機会を狙っていた。

 まさにその時、階上で扉の開く音が聞こえた。


『まさか。ほかに誰かいるのか』


 戸張に緊張が走った。同じく春とアリにも緊張が走る。


「……誰だろう」春がナイフを佐々木の腹に突き刺して置くと、音を確かめるように耳に手をあてた。手のひらは血で真っ赤になっている。

「小太郎たちは電車に乗って帰ったからここにはいないはずだ。となると……また空き巣か?」

「まさか。こんなところに? だって電気ついてるし。それはないよね」

「だといいけど。とりあえずちょっと見てくるから、春はここにいて続きを楽しんでいて」

「うん、気を付けて」




 チャンスだ。二人が別々になったらもうこっちのものだ。殺すのは時間の問題だ。