『ピンチのときこそ必ず策が浮かぶ。それを頭から弾き出すために、百パーセント脳みそに集中して頭の中から探し出すんだ。それができなきゃあとは死ぬのを待つのみだ』

 戸張さんがそうやって教えてくれた。頭の中にある策を探し出すんだ。

 中西は戸張に教えられてきた知識と過去の経験から脳みそをフル稼働して探し始めた。

 こうしている間にも奴らはどこかで見張っていて意識を取り戻したと知れば、ここに来るまでにそんなに時間は無いはずだ。


 6畳くらいの部屋。天井から吊るされている輪に紐がくくられ垂らされていてその先に俺。

 この紐さえ切れたら逃げられる。ズボンに忍ばせているナイフは全裸にされたときに見つかっただろう。

 ということは、ナイフで切って逃げる方法はなくなった。足は紐で縛られている。

 待てよ。手には手錠だけだ。これならなんとかなる。



『落ち着きゃ見えてくるものがある。それを絶対に見逃すな』

 ああ、確かにあんたの言った通りだよ。

「戸張さん、落ち着いたら見えてくるもの……ありましたよ」


 手錠。こんなもの簡単に解ける。何度となく戸張さんに手錠の外しかたを教えられてきた。切羽詰まっても焦ったら負けだ。っていうのは今このとき、これのことだな。

 からからに乾いている喉を湿らすように唾を飲み落とし、慎重に手錠を解いていく。


 とはいえ、手首に傷をつけて血で滑りをよくさせるのは苦痛だ。それと同時に関節を外していくのはそう簡単なもんじゃない。


 焦る心を落ち着かせて慎重にゆっくりと回しながら抜いていく。


「よし、もう少しだ」

 腕をおろした瞬間、血液が指先にどっと流れ、関を切ったように血が溢れだした。


 赤くなった手首を優しく撫でながら足首を固定しているものを外しにかかった。