アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 いや、まあ、この人はいつも忙しいのだが。

 ああ、それでか、と思った。

 少し冷めた気持ちで、先程までのことを思い出す。

『那智、今、家か?』

「違う」

 何処だ? と訊いてくるので、
「辰巳遥人の家ですよ」
と言うと、相手は黙った。

「今、本人は、梨花さんと出て行っちゃいましたけど」

 沈黙のあと、
『……落ち着け、那智』
と桜田は言ってきた。

 いや、お前が落ち着け、とその声を聞きながら思っていた。

『辰巳遥人は今は居ないんだな?
 じゃあ、ちょっと出てこい』

 まだ食べていないから、食事に付き合えと桜田は言う。

 ちょうど、この怒りを抑えるのに、甘いものを食べたいと思っていたところだった。

「いいですよ」
と言い、桜田と待ち合わせる。