君のかすれた声はこう続く。



「だって。お前の父さん、引っ越したって噂聞いて……」



君の表情が見えない。


もしかしたら悲しい顔をしてくれているんだろうか。



「た、単身赴任だよ」



私がそう口にすると、君はがばっと体制を戻し、顔を上げた。



「それ、本当?」



目を見開いて、私をじっと見つめる君。



それは、混乱? 安心? 疑い?


上手く感情が読み取れない。



「当たり前じゃん。てか余計なこと考えてないの! もうすぐ本番だよ?」



「ああ。そーだよな。ごめん」



君は言葉を噛みしめるようにそう言って、勉強に戻っていった。



やっぱり、あの事実は君を惑わせてしまうようだ。



最後まで隠しきろう。



そう固く心に誓った。