願書受け渡しまであと三日。

加藤さんは学校に来なくなった。

でも、みんなはそんな事を気に留めず勉強に集中していた。

あのいじめの日々が嘘のようだ。

みんな自分は関係ないと思っているからだ。


休み時間、私は旧校舎の図書室に訪れた。

ここで梶谷さんは尾崎さんと犯人二人の会話を偶然にも聞いてしまった。

確かに旧校舎に訪れる生徒は少ない。

寧ろ立ち入り禁止とされるかもしれない場所。

死角になるところもある。

誰かが来ているなんて気づかないぐらいに静かに時間が流れていく。


…あれ、図書準備室の方に誰かがいる。

あの癖のあるロングヘアは水谷さんだ。

本を読んでいる。

声をかけようか迷ったけれどやめた。

教室で教科書意外の物を読む事はタブーになっていた。

きっと、ここなら誰にも気づかれずに本が読めると思ったのだろう。

犯人の一人は趣味が読書と言われている。

読書好きは私のクラスには多い。

疑われたくないからここで本を読んでいる水谷さんの本の世界の時間を邪魔してはいけない。

私はそっと図書室を後にした。


私は放課後のホームルームが終わると雪村先生に加藤さんに宿題を届けたいと志願した。

加藤さんの家は学校から近いと聞いた事がある。

学校の坂を下って右に曲がり商店街を抜けて喫茶店の近くのマンションに住んでいる。

雪村先生は顔を顰めていたが、ふと日比野なら大丈夫かと静かに答えた。

聞こえないぐらいの小さな声だったけれど私には聞こえた。

地獄耳なのかもしれない。


雪村先生は加藤さんがいじめられている事を知っているからこそ慎重になって、私が加担(傍観者だけど)していないとわかったから了承してくれた。

やっぱり雪村先生は加藤さんのいじめを無視していたんですね。

雪村先生が教師としての評価を生徒よりも大切にしている事がハッキリとわかり絶望した。