反射的に、呼ばれた方向へと勢いよく顔を向けてしまう。

だけどそこにいるのは綺麗な黒髪の、華やかな笑みを浮かべた男の子。

既にクラスの中心人物の榎本 晴也くん。



実は、〝はる〟と呼ばれる彼に反応してしまったのは今回が初めてじゃない。

何度も期待しては、自分のばかさ加減にがっくりと肩を落とす毎日なんだ。



今わたしがいるところでは〝はる〟は〝ハルカちゃん〟じゃない。

そのことや、ひとりぼっちの生活に早く慣れないといけない。



そう気を引き締めているはずなのに、また彼の名を呼ぶ声にびくりと反応してしまって。

きっとそのせいだね。



「ねぇ」



わたしは近づいてきた榎本くんに声をかけられた。



「へ、えっ、な、なんでしょう」



ぱんっと叩くように本を閉じる。

緊張のあまり、うわずった声が出た。



だって……だって榎本くんは明らかにわたしと住む世界の違う人だし、すごくかっこいい人だし。

高校生になってから教室でほとんど声を発していないわたしとしてはどうしても焦っちゃうんだもん。