ゆっくりとまぶたを上げる。

そのまま教室の前を離れようとすると「そういえば、西田のことなんだけどさー」と中からわたしの名前が聞こえる。

びくりと震えて踏み出そうとした足を、刺さったままの画鋲の音がしないほど静かに下ろした。



「はると西田って別れたんだよな?」



ひゅう、と喉の奥から音がする。

息を呑んで震えて、心臓から全身が冷えていくよう。



どうしてそんなこと、今さら訊いているの?

はるくんは……伝えていなかったの?



みんなわたしたちの距離感からわかっていたはず。

だからと言って、友だちにも報告していなかったなんて。



ねぇ、はるくん。

わたしとの関係は、終わりをはっきり告げることもできないようなものだったのかな。



わからない。

はるくんの気持ちがもうずっと、わからないよ。



……ああ、そっか。

きっと初めから、わたしはなにひとつ、君のことをわかっていなかったんだね。



そっと扉の窓から彼らを覗き見る。

割れにくいように加工されたガラスは針金が網のようになっていて、顔が少しわかりにくい。



それでも、彼がいつもと変わらない、気安い笑顔を浮かべている姿はよく見えた。