「……あっ」



かすかな声を漏らして、ぴたりとわたしの足が止まる。



いつもならわたしの家まで送ってくれる彼は、まだしばらくわたしに合わせてこの道を真っ直ぐ行く。

だけど今日は駅に向かう角を曲がった。



そう、だよね。

わたしと一緒に帰ってるわけじゃないんだから、わざわざそんな遠回りなんてするはずない。



今までと変わっていない方が不自然なのに。



「曲がらないで……」



それを無意識に求めてしまっている。



きつくまぶたを閉じる。

目の前の現実から目を逸らすように、自分が選んだことだとこらえるように。



わがままを言ってはいけない。

こんなわたしのことなんて、はるくんはもうなにも思ってないんだから。

優しい彼のことだから嫌悪感は抱いていなくとも、好意なんてもう向けられるはずもないんだから。



そうやって自分に事実を言い聞かせる。

だけど余計に耐えられなくなり、もがこうと目を開けてその場を駆け出してしまう。

走って、追いかけて、彼の行った曲がり角を曲がって、



「はるくん!」



君の名前を呼んだのに。






────そこには、彼は、いなかった。