5回現在無失点。
三振もここまでで6つ奪った。
青翔2点リードで試合は進んでいたが、ノーアウトランナー1塁の所で、初めてフォアボールを出してしまう。
伝令を務めているチームメイトが、こっちへ走って来るのが見えた。
……ここで終わりか。
調子が良い悪いに限らず、長くても5回までと言われてたから。
投球練習をしていた凌空もマウンドにやってくる。
「やべー、マジ楽しい」
率直な気持ちを笑顔で伝えると、凌空にツッコまれた。
「今ピンチなんだぞ?得点圏にランナー背負ったんだからな」
でも、そう言う凌空の顔も笑顔。
5回でも思う存分楽しめた。
これで夏が終わっても悔いはない。
夢の大舞台に、結良と凌空と一緒に来れた。
これ以上の幸せはないだろ?
「……凌空ありがとう。凌空が見せてくれたこの景色、一生忘れない」
ここで伝えたいと思ってた。
甲子園のマウンドで。
「……バーカ。まだ終わってねえんだよ……」
凌空が帽子をずらし、目元を隠した。
俺だって、うっかりするとマウンドで泣きそうだ。
「……だな。
このバッター、低め狙ってけばいつか振ってくれるから凌空なら打ち取れるぞ」
でもやっぱり……また次も投げたい……!
始まったばかりの夏を、夢を、まだまだ見ていたいんだ。
みんなともっと野球がしたいんだ。
「おう、あとは任せろ!!」
「頼んだぞ!」
俺は白球を凌空のグローブの中に収め、エールを込めて背中2度叩くとマウンドを降りた。
凌空はその後きっちり抑え。
青翔は初戦を突破した。