公式戦もここまで4試合戦い、ベンチでの用意も手馴れてきた。
「ドリンクよし、タオルよし……」
一通り準備に抜かりがないのを確認して、最後に紙袋の中からユニフォームを取り出した。
隼人の……ユニフォーム。
初戦からずっとベンチで見守ってくれていたこのユニフォームを、ベンチの奥に掛けた。
"隼人も一緒に戦っている"
その想いをメンバーで共有するために。
このユニフォームを着た隼人と一緒に甲子園に行きたい。
それは部員全員の想い。
今日は隼人も球場に来てくれるけど、今まで勝利してきたゲン担ぎも兼ねて、借りたままなんだ。
「結良、今日も頼むな」
用具の準備が整った選手たちは、これからシートノックを行う。
「あ、凌空っ」
凌空はあたしに声を掛けたあと、隼人のユニフォームを見上げ、触れて。
自分の帽子をあたしに渡すと、隣に置いてあった隼人の帽子を手に取った。
「今日は隼人と一緒に戦う」
そう言った凌空は。
「隼人、力貸してくれよ」
帽子に向かって言葉を落とすと、その帽子を被った。
「凌空……」
「結良のためにも、隼人のためにも、チームのためにも……絶対に甲子園、手に入れる」
真剣な瞳に、強い決意を感じる。
「うん……。凌空なら……きっと出来る……」
「しっかり見てろよ」
凌空はそう言うと、笑顔でグラウンドに飛び出して行った。
渡された凌空の帽子。
何気なくひっくり返して。
「……っ……」
ワッ……と溢れ出る涙。
たまらず口元をおさえ。
「……凌空……っ……」
その帽子を胸に抱きしめた。
帽子のツバの裏に書いてあったのは。
【結良と隼人と一緒に甲子園に行く!!!】
まだ小学生の凌空が書いたと思われる、力強いメッセージだった───