「後でやるから置いとけよ」
「ううん、だめ。あたしマネージャーやったおかげで、こういうの放っておけなくなったんだよねー」
傍観していた俺を押しのけ、洗濯機のスイッチを押し、今度は掃除機を手にした。
ウイーンと耳障りな音がリビングに響く。
「邪魔」
突っ立つ俺にわざと掃除機の先端を当ててくる。
「ほら、窓開けて!」
「……」
言われるまま窓を開けると、涼しい風が舞い込んできた。
……気持ちいいな……。
俺はしばらく窓辺に立ち、吹く風に体を委ねる。
2日ぶりに浴びる外の空気はすごく新鮮で、胸に燻っていたものまで浄化されて行く感じがした。
前を見れば隼人の家。
張り巡らされた緑のネットはよく見ると、かなりボロボロだった。
敷き詰められた芝の一ヶ所だけが剥げて、土がむき出しになっている。
それは隼人の努力の跡だ。
……全ては、甲子園のために。
その夢を、俺が奪ったも同然だ。
見ていられなくて俯いた。
「……凌空……」
いつのまにか、うるさい機械音は止んでいた。
無防備な背中に呼び掛けられ、走る緊張感。
「……今日は、お願いがあってきたの」
……だよな。
ただ掃除に来ただけじゃねえよな。
言われることが分かってるから、あえて外を見たまま無視を貫く。
「預かってきたの、これ、隼人から……」
"なにか"を言わない結良。
……けど、俺にはそれが分かった。
だからますます振り向けねえ……