「なあ、結良」
「ん?」
見上げたあたしに、隼人は声を絞り出した。
「……多分、俺より凌空の方が苦しんでる。……支えてやって……ほしい」
その瞳が揺らぐ。
……もしかしたら。
自分がマウンドに立てないことよりも。
凌空がグラウンドを去ったことに、胸を痛めてる……?
……隼人はそういう人だ……。
いつだって周りに目を配って、周りのことを考えて。
そんな隼人の頼みなら、なんだって聞くよ……。
声を出すと涙がこぼれそうで、あたしは一生懸命首を縦に下ろした。
「たのんだぞ」
マウンドに立てなくて悔しいはずなのに、こんな時に凌空を気遣う隼人の優しさに触れて、また溢れ出す好き。
「俺の夏は終わったけど、凌空にはまだチャンスがある。後悔のないように、俺の分までしっかり戦えって伝えて」
ふわりと大きく揺れた白いカーテンが運んでくる夏の風。
夏の匂い。
懐かしく、どうしようもなく苦しい。
だけど……こんなにも温かい……。
隼人の強さと優しさが、あたしの心に融和して。
「凌空が拒否っても、必ず渡して」
「……わかった、必ず渡すっ……」
隼人の想いと一緒に。
あたしは隼人の背番号を大事に胸に抱えながら、何度も何度も頷いた。