「ちょっと、何やってるの?」
「何って、見ての通り筋トレ」
言いながらも動きを止めない隼人。
「大丈夫なの?」
「足は絶対安静だけど、上はピンピンしてんだから。鍛えとかないとなまるだろ」
ニッと笑って、もっと動きを速める。
「怪我を早く直して、一日も早くグラウンドに戻れるようにすることしか、今の俺には楽しみがないしなっ……」
フーッと息を吐くと、ダンベルを横に置いた。
どのくらいやっていたのか、額にはうっすら汗も滲んでいる。
「……強いね、隼人は……」
見てるだけで涙が出そうになった。
人は目標を失ったら、這い上がるまでには時間が必要なはず。
隼人だって簡単にはいかないと思ってたのに。
「この夏を後で思い返せば、後悔が襲ってくるかもしれない。でもその時に、ふさぎ込んでばかりいた俺まで、思い返したくねえんだ」
隼人は噛みしめるように言った。
「どんなにつらくても、眠くもなるし、腹も減る。それが生きるってことなんだよな。別にこの怪我で、野球を取り上げられたわけでもない」
……そのメンタルの強さはどこから来るの……?
「甲子園に行けなくても、俺が野球を続ける限り野球人生は終わらねえんだよ。俺は野球が、好きだから……」
ケアや注意を怠って、怪我したわけでもないのに。
ちゃんと怪我と向き合って、回復へむけ闘っている。
すでに一歩踏み出している隼人の強さが、痛いほど眩しい。