「クソッ……クソッ……!」
そう言いながら何度も布団を叩く隼人の反対の手を握り、息をひそめて見守るしかなかった。
あたしに別れを告げた時でさえ冷静だった隼人の荒れた姿は、顔を背けたくなるほど。
でも、逃げちゃダメ。
現実から目を背けちゃいけない。
辛くて苦しい想いをしている隼人から、目を逸らしちゃいけない。
思いっきり、悔しさを吐き出して……その後は、あたしが支えるから……。
「帰れよっ……」
隼人はあたしの手を振りほどき、頭から布団を頭から被った。
嵐が止んだ後みたいに静かになる病室。
布団で覆われた隼人の体は、動くことはない。
怒りを吐き出して……今はその怒りと冷静に闘ってるんだ……。
……あたしは、その怒りを包み込むように、その白い膨らみを上から優しく抱きしめた。
優しく、背中を撫でる。
痛みも苦しみも怒りも悲しみも、一緒に背負うよ……。
いつの間にか眠ってしまった隼人が目を覚ましたのは、それから2時間後だった。
「まだいたのかよ」
「……うん」
窓の外はすっかり闇に覆われていた。
眠っている間に運ばれてきた食事も、すっかり冷めてる。
「隼人、ごはん来てるよ」
「いらねえ……」
「少しでいいから食べよう?」
「結良が食っていい」
「……あたしはいらないよっ……」
グゥ~……。
拒否した反動なのか、お腹が鳴ってしまう。全く緊張感のない音で。
ああもう、なんでこんな時にっ。
「ははッ……」
慌ててお腹を押さえると、隼人から笑いが漏れた。
……あ。
「もう帰れよ」
「……」
笑顔もつかの間。さっきと同じ言葉に、また心が沈むけど。
「遅いだろ。じゃないと、俺が心配でいられねえんだよ」
「……わかった」
さっきまでのヤケになっていた隼人と違い、あたしを気にかけてくれるいつもの姿にあたしは素直にうなずいた。
「また来るから……」
小さく手を振り、涙をこらえながら病室を後にした。